今日からできる ACTを一緒に
TEAM TIME TO ACT
脱炭素化に向けた実効性ある行動を広げるため、
地球環境を真剣に考える3名がTEAM TIME TO ACTに就任。
東京都の脱炭素化アクションについて学び、発信します。
MEMBER
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一ノ瀬メイ
<水泳パラリンピアン>
1997年生まれ、京都府京都市出身。先天性右前腕欠損症。イギリス人の父、日本人の母を持ち、イギリスやオーストラリアでの海外在住経験も長い。幼少期から始めた水泳で数々の日本記録を打ち立て、2016年にはリオデジャネイロ・パラリンピックに出場。現在は現役を引退し、「社会から障害を取り除く」ことをモットーに、YouTubeチャンネルや各種SNSで自身の活動やライフスタイルを発信。差別やエシカルについての講演会も精力的に行う。
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小澤 健祐
<SDGs専門メディア編集長>
2018年4月ディップ株式会社に入社。SDGsと社会をつなぐメディア『SDGs CONNECT』、日本初のAI専門メディア『AINOW』の編集長を務める。これまでに多くの企業やイベントを取材し、活用視点でSDGsの取組事例やニュースを発信。カメラマンとしても活動中。
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星野 佳路
<星野リゾート代表>
1960年生まれ。長野県軽井沢町出身。慶応義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年星野温泉(現在の星野リゾート)社長(現在の代表)に就任。現在、星野リゾート代表。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。現在の運営施設は「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO(おも)」「BEB」の5ブランドを中心に、国内外60ヵ所に及ぶ(2022年10月現在)。国内外でテレワークを実践するとともに、年間70日以上のスキー滑走を目指している。
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RELAY COLUMN
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THEME1:省エネ・再エネ
一人の100歩より百人の1歩。
人・社会・地球と、自分をつなぐ
“心地よさ”のために。一ノ瀬メイ
<水泳パラリンピアン>
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THEME2:水素
水素エネルギー普及拡大の鍵は
生活者視点の体験づくり。小澤 健祐
<SDGs専門メディア編集長>
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THEME3:資源循環
利益を犠牲にしない環境対策への工夫こそがサステナブル。
星野 佳路
<星野リゾート代表>
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一人の100歩より百人の1歩。
人・社会・地球と、自分をつなぐ
“心地よさ”のために。一ノ瀬メイ
<水泳パラリンピアン>
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Question
日頃から環境問題や気候変動に関心を持って様々な活動をされていますが、一ノ瀬さんが環境問題や気候変動に関心を持つようになったきっかけは?
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Answer
練習拠点のオーストラリアで観たドキュメンタリー映画がきっかけです。
当時は新型コロナウイルスの感染拡大により、オーストラリアでも厳しいロックダウンがありました。
練習も思うようにできないなかで、視野を広げ、アスリートとして自分を高めるためにドキュメンタリー番組を観ていたのです。
そこで目にしたのは、地球の気候変動が危機的な状況にあること、そして私たちの食生活や何を食べるかという選択が、気候変動に多大な影響を与えていることにショックを受けました。
アスリートとして活動している以上、飛行機での移動を減らすことは難しい。けれど、この1食から変えるというアクションはできる。そんな思いから、あらゆる動物性食品を摂取しない「ヴィーガニズム」という生き方を選ぶようになりました。
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Question
ご自身でも「エシカル消費」をテーマにしたイベントの開催に携わっていますね。エシカルとはどういう意味なのでしょうか。
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Answer
エシカル(ethical)とは、直訳すると「倫理的」「道徳上」という意味を持つ言葉です。
最近では「エシカル消費」という言葉を目にする機会も多く、地球環境や人に配慮した商品を消費するという考え方に注目が集まっています。
ただ、私にとってのエシカルとは、シンプルに「えしかる(・・・・)=影響をしっかり考える」ということ。つまり、自分にとっての心地よさを目指すだけではなく、社会や地球にとっての心地よさを目指すという考え方です。
例えば、チョコレートを買う時に、このチョコレートを選び、食べることがどのような影響を与えるかを考えます。もしかしたら、フェアトレードではないかもしれないし、児童労働があったかもしれない。無意識に食べるのではなく、その行動の「つながり」を考えることが重要です。この考え方は、環境問題にも通じる部分があると思います。
みだりにエネルギーを消費した結果、世界のどこかで干ばつや洪水などの異常気象となって現れることも考えられます。私は高校生の時から、「障害」を作り出しているのは社会の一員である私たち一人ひとりであること、またその社会が障害者をなくすこともできると訴えてきましたが、そういう意味では、気候変動も人間が作り出しているひとつの障害なのかもしれません。
日本は気候変動の影響を受けやすい国。だからこそ、『TIME TO ACT』を通じて環境問題や気候変動と向き合い、自分が選択する行動の影響を考えることが大切なのではないでしょうか。
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Question
東京都のエネルギー消費量の約3割は家庭から排出されており、省エネのカギは家庭での取り組みにあります。東京都では『HTT(電力を減らす・創る・蓄める)』をスローガンに、家庭でできる節電術を紹介していますが、こうした取組についてご存じですか?
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Answer
はい。環境問題や地球環境の危機的状況に対して、個人レベルではどうしようもないと行動を躊躇している方も多いと思います。そんな方でも、『HTT』という解決策を知ることで、自分にもできることがあると気づけるし、具体例を知ることで、行動にも移しやすいと思います。また、東京都全体で使われているエネルギーの3割が家庭で使われているということについても、見方を変えれば、個人できることが3割もあるということ。個人の意識が変わり、行動が変われば、地球温暖化を防ぐことに貢献できる。これは、私たちにとって大きな希望だと思います。
※HTTや家庭ででききる節電術などは、以下東京都のサイトからご確認いただけます。
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/tokyo_coolhome_coolbiz/index.html
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Question
普段から行っている節電術はありますか?また、東京都ではホームページなどを通じて、普段の生活に取り入れやすい「夏の省エネ術」を紹介していますが、実践したいものはありますか?
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Answer
そうですね。普段から行っているのは、就寝1〜2時間前から照明を消して、キャンドルの光で過ごすこと。「節電」を意識していたわけではないのですが、心身ともにリラックスできておすすめです。
また、家が南向きで日当たりも良いので、日中は照明をつけていません。東京都のホームページで、「家庭で最も消費電力が大きいのは照明器具」と紹介されていましたが、その意味では普段から節電できていると思います。
夏の省エネ術も見ましたが、こんなにあるんですね!LED照明に変える、グリーンカーテンで夏の日差しを遮る、節水型シャワーヘッドを使う、隙間テープで冷気が逃げるのを防ぐ、エアコンは扇風機と併用する……どれもすぐに取り組めそうなものばかりですが、気になったのはグリーンカーテン。実は、子どもの頃に母がゴーヤのグリーンカーテンを作っていたんです。家庭菜園を楽しみながら省エネに役立つのが良いですよね。
食品が手元に届くまでには様々な工程があり、それぞれの工程で多くの環境負荷がかかります。地産地消することでエネルギーの消費を減らせるので、グリーンカーテンには暑さを防ぐ以上の価値があると思います。ぜひ取り組んでみたいです。
※グリーンカーテンの作り方等は、以下東京都のサイトからご覧いただけます。
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/green/green_wall.html
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Question
東京都では家庭の省エネ行動を促すために、省エネルギー性能の高いエアコン、冷蔵庫、給湯器、LED照明器具に買い替えた都民に、商品券等に交換できる『東京ゼロエミポイント』を付与したり、『東京ゼロエミ住宅』を新築した建築主に対して、その費用の一部を助成するという事業をやっていますが、ご存じですか?
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Answer
そんなお得な制度があるんですね!「環境に優しくあろう」という人が得をする状態を作れれば、環境に対する意識の高い人が増えると思います。
本来、環境への「意識の高さ」はとても大切なはずなのに、環境について話をすると共感してもらえなかったり、敬遠されたりすることも多いものです。大都市である「東京」が先導することで、みんなができること、みんながやるべきこと、というように人々の意識も変わっていくのではないでしょうか。
「環境に優しくある」ことが当たり前なムーブメントを起こす。『東京ゼロエミポイント』や『東京ゼロエミ住宅』には、そんな可能性があると思います。
※東京ゼロエミポイント等については、以下東京都のサイトをご覧ください。
https://www.zero-emi-points.jp/
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/home/tokyo_zeroemission_house/index.html
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Question
東京都では、住宅等の一定の中小新築建物への太陽光発電設備の設置等を義務付ける新たな制度を検討しています。太陽光発電についてどのようなイメージをお持ちですか?
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Answer
「暮らしに身近な再生可能エネルギー」というイメージを持っています。
オーストラリアでは太陽光発電設備のある戸建住宅に住んでいましたし、近隣にも太陽光発電設備を付けている住宅がたくさんありました。
太陽光エネルギーは無尽蔵なので、石油や石炭のように枯渇する心配がないのはもちろんですが、「電気を作って使う」がセットになっているので、「循環」をわかりやすく実感できるのが良いですよね。
手の届く範囲で再生可能エネルギーを導入できる手軽さが良いと思います。
※太陽光発電設備の設置等については、以下の東京都のサイトからご確認いただけます。
https://www.time-to-act.metro.tokyo.lg.jp/initiatives/220826
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Question
『TIME TO ACT』のアンバサダーとして、どのようなメッセージを発信していきたいですか?
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Answer
普段から自分の言葉で情報発信をしていますが、一人でできることは限られており、人、企業、行政と行動を共にするからこそ、できる「拡がり」があると信じています。
私が常々大切にしているのは「一人の100歩より百人の1歩」という言葉。一人で100歩を進むことも、百人で1歩進むことも同じなら、百人で1歩進んだ方が前向きに取り組めますし、無限の可能性があるでしょう。
特に環境や気候変動に対してアクションを起こそうとすると、「自己犠牲」や「我慢」と同じ意味で捉える人がいますが、決してそんなことはありません。
例えば、多くの人が問題意識を抱えている海洋プラスチック問題を例に挙げれば、私たちが排出したプラスチックごみが魚などの海洋生態系に入り込み、私たち人間にも影響を及ぼすことが懸念されています。東京の海に新たなプラスチックごみを流出させないよう、マイバッグや水筒などを持ち歩いたり、自然由来の物を選ぶことは、自分と環境を守る一歩になります。
同じことが、省エネや再エネにも言えます。人、社会、地球の心地よさを考えて行動することが、自分一人の心地よさにもつながる。そういう気持ちで一歩を踏み出せる人を、一人でも多く増やしていきたいです。
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水素エネルギー普及拡大の鍵は
生活者視点の体験づくり。小澤 健祐
<SDGs専門メディア編集長>
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Question
東京都では、2050年の脱炭素社会の実現に向けて、気候危機への対応とエネルギー安定供給の両面から、今後一層重要となるのが、再生可能エネルギーと「水素エネルギー」の普及拡大だと位置づけております。水素エネルギーについて、どのようなイメージをお持ちですか?
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Answer
「二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギー」というイメージを持っています。2021年にSDGs専門メディアを立ち上げて以来、100社以上の企業や有識者にインタビューしてきましたが、化石燃料に頼り続けた社会が、いかに不安定で危ういかを痛感しています。日本でも、企業の間で脱炭素への流れが加速しており、その手段として電気をエネルギー源とする電気自動車(EV)等のゼロエミッションビークルに大きな期待が寄せられています。
特に、水素自動車(FCV)は走行時に二酸化炭素を排出しないだけでなく充填の時間が短く、長距離走ることができるメリットもあります。水素ステーションの数が充電スタンドと比べて少ないといったインフラの課題はありますが、こうした水素のポテンシャルについては探求していく必要があると思います。
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Question
東京都では「ゼロエミッション東京戦略」を策定し、様々な分野で水素の積極的な活用を推進しています。ホームページでも取組を紹介していますが、ご存じですか?
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Answer
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の聖火台・聖火リレートーチにおける水素活用、選手村周辺での活用、燃料電池バスの導入……。東京2020大会は、史上初めて水素が活用された大会として話題になりましたよね!オリンピック・パラリンピックという国際的な舞台で、新しい技術がどのように使われているのか、常識がどのように変わっていくのかを世界に向けて発信できたことは大きな意味があったと思います。また、街で燃料電池バスを見かけることも多いです。従来の路線バスとは異なり、洗練された未来感のあるデザインが印象的。水素の活用技術と近代的なデザインが相まって、見る人をワクワクさせてくれるバスだと思います。また、街中を当たり前に走行しているということも重要で、都民が「水素」とのつながりを身近に体験できるきっかけにもなりますね。
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Question
東京都では水素エネルギーの普及・導入を促進するため、燃料電池自動車や水素ステーションの整備、家庭用・業務・産業用燃料電池の設置に対して、積極的な補助を行っています。こうした取組についてどのような印象をお持ちですか。
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Answer
水素ステーションを設置して供給場所を作ること、燃料電池バスや燃料電池車のカーシェアリングを通して水素に触れる機会を提供していること、燃料電池の設置にかかる費用に対して助成を行うことで、家庭にも普及を進めていることなど、地に足をつけた取組をしているという印象です。こうした取組を多くの都民に知ってほしいと願う一方で、水素社会を実現するには、コスト低減やインフラ整備による利便性の向上など、解決すべき課題が多いのも事実です。また、家庭用燃料電池の普及、燃料電池自動車の市場投入、水素ステーションの整備は着実に進んでいるものの、それ以外の分野では実用化されていない技術も多く、私たちの生活がどのように変わり、社会に広がっていくか、イメージできないという方も多いのではないでしょうか。より多くの人に水素エネルギーを知ってもらうためには、「クリーンであること」を発信するだけではなく、生活者視点で「いかに使いやすいか」を打ち出していくことが重要です。ITの分野ではUX(ユーザーエクスペリエンス)やCX(カスタマーエクスペリエンス)という言葉が頻繁に使われます。ユーザー(生活者)の視点で、どのような体験価値を提供できるのかがサービスづくりに必須の視点になっています。水素エネルギーを普及させていく上でも、水素のクリーンさを伝えるだけでなく、生活者がいかに便利になり、どんな価値が提供できるのか、水素を利用することで得られる「体験」から設計していくことが求められると思います。
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Question
目に見えない水素を多くの方に体感してもらうために、産学官の連携による『Tokyoスイソ推進チーム』(略称:チームすいすい)を立ち上げたり、水素利用の普及を促進するために、水素ビジネスを展開する企業と連携した会議を開催したりと、企業や大学等を巻き込んだ取組にも力を入れています。水素社会の実現に向けて、行政はどんなことに力を入れるべきだとお考えですか。
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Answer
東京都が、大学などの教育機関・研究機関と民間企業を結びつけることで、水素エネルギーの普及はより一層進むと思います。例えば、研究機関が持つ研究技術を企業が活用して実用化したり、反対に企業のニーズを捉えた研究を行ったりと、それぞれの役割を理解した上で連携をとっていくことが重要です。ここ数年、ESGやSDGsに強い関心を示す企業や投資家が増えており、2021年のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)改訂により、上場企業は二酸化炭素排出量の開示が求められるようになりました。企業に対して、環境問題への積極的な取り組みが求められる今だからこそ、東京都には、引き続き導入支援に力を入れていただきながらも、企業における水素の利活用モデルを構築し、各分野での普及を後押ししてもらいたいです。
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Question
2022年10月12日(水)には、グリーン水素の普及に向けた知見を共有する「TIME TO ACT:水素フォーラム2022」が開催されます。国際会議を東京都が主催することに対して、ご意見をお聞かせください。
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Answer
日本の産業競争力は低下傾向をたどっていますが、水素エネルギー活用の技術開発では世界をリードしています。また、海外と比べて日本のインフラは質が高く、既存のインフラで培った技術やノウハウの活用も期待されています。世界各国で水素技術の実用化に向けた動きが加速する中、大都市である東京がイニシアティブをとって、日本の強みや日本人らしさを発信することのインパクトは非常に大きいでしょう。『TIME TO ACT』を一過性のものにしないためにも、生活者視点でどのような行政サービスを提供できるか、グリーン水素の需要拡大・社会実装化に向けてどのような取組を行っていくか、国際フォーラムの開催等により大きく発信していただきたいです。
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Question
『TIME TO ACT』のアンバサダーとして、どのようなメッセージを発信していきたいですか?
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Answer
私は「人間とAIが共存する社会をつくる」をビジョンに、さまざまな発信活動を行っています。AIなどの最新技術が人間と融和した次世代社会をつくっていくためには、エネルギーの観点からも未来を描き、アクションに落とし込むことが重要です。SDGsというわかりやすい道標も示される今、エネルギー周りの技術発展には注視しつつ、SDGs専門メディアの編集長としても水素エネルギーの可能性により注目し、みなさんに伝えていきたいです。
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利益を犠牲にしない環境対策への工夫こそがサステナブル。
星野 佳路
<星野リゾート代表>
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Question
近年、「環境負荷軽減」と「経済成長」の両立を目指す経済システム「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」に注目が集まっています。東京都では、さらなる資源循環を推進するために、公益財団法人東京都環境公社(以下「東京都環境公社」という。)と連携して東京サーキュラーエコノミー推進センター(設置場所:東京都環境公社)を活用し、資源循環に関する相談・マッチングやモデル事業、情報発信を実施しています。サーキュラーエコノミーの視点で実践していることはありますか?
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Answer
星野リゾートでは1990年代から環境経営を推進し、これまでに様々な取組を行ってきました。例えば、2005年に開業した「星のや軽井沢」では、運営によって生じる廃棄物を単純に焼却したり、埋め立てたりするのではなく、資源として再利用・再資源化しようという試みを行ってきました。まず始めたのが、披露宴の料理を当日選択制にしたこと。ホテルの披露宴では和洋折衷料理を提供するのが一般的でしたが、食べ残す方も多く、食品ロスの原因になっていました。それもそのはずで、参加者一人ひとり好みは違いますし、食べられる量も違います。そこで、当日に着席した段階で料理の種類(和食・洋食)、料理の分量を選択できるようにした結果、食べ残しは劇的に減りました。今では披露宴の規模に合わせて、提供する料理の種類や量もほぼ正確に算出できるようになり、廃棄物の軽減につながっています。また、生ゴミは近隣の牧場と提携し、堆肥としてリサイクルしています。始めた当初は、生ゴミの中にフォークやナイフが混在し、それらを取り除くコストも大きかったのですが、金属探知機を使用するなどして生ゴミの資源化に成功することができました。ここで作られた堆肥は野菜の栽培に使用され、その野菜を星野リゾートで仕入れるというように資源の循環を創出しています。なかには再利用できないごみもありますが、すべて再資源化するために28種類に分別しています。常に創意工夫を重ね、時間をかけて取り組んできた結果が、ホテル・旅館業界初の「廃棄物の再資源化率100%」につながりました。
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Question
コロナ禍を経て人々の生活スタイルは変化し、「新しい日常」をベースにしたスタイルへの転換が急速に進んでいます。アフターコロナを見据え、私たちは食品ロスやプラスチックごみ問題とどのように向き合えば良いとお考えですか?
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Answer
食品ロスは、飲食店での食べ残しや小売店での売れ残りなどから発生します。海外では、外食をした際の食べ残しを「ドギーバッグ」に詰めて持ち帰るのが一般的ですが、日本では衛生面の配慮から持ち帰りに消極的なレストランも少なくなく、また食べ残しを持ち帰る気恥ずかしさもあって、浸透するには時間がかかりそうです。しかしながら、ドギーバッグは食品ロスに大きなメリットをもたらします。日本でもドギーバッグの利用を推進する動きもあり、持ち帰りの文化が浸透することを期待しています。プラスチックごみ問題に向き合う上で、日常生活で取り入れたいのは「4R」です。4Rは従来の3R(Reduce=ごみを減らす、Reuse=くり返し使う、Recycle=資源として再利用する)の前に、「Reject=断る・拒否する」が加わります。つまり、ごみになるような物は買わない、受け取らないという態度を“入り口”から示すことを意味します。例えば、肉や魚、惣菜を買うとプラスチックの使い捨てトレーがついてきますが、トレーを受け取らずに買う方法もあるはずです。まず、Rejectから始めるという発想を持つこと。それだけで、プラスチックごみの量は減らせるでしょう。
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Question
2022年4月にスタートしたプラスチック資源循環促進法では、使い捨てプラスチックを削減するため、ホテルで提供されるヘアブラシ、くし、かみそり、シャワーキャップ、歯ブラシなどのプラスチック製アメニティの使用の合理化が求められています。星野リゾートでは、どのように対応していますか?
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Answer
プラスチック資源循環法が施行される前から、歯ブラシを再利用する仕組みを各宿泊施設に導入しています。具体的には、星野リゾート30施設で年間100万本以上廃棄されている使用済み歯ブラシを回収して、新たな歯ブラシとしてリサイクルするというものです。また、「特定プラスチック使用製品」の対象にはなっていませんが、すべての運営施設で個包装のソープ類(シャンプー、コンディショナー、ボディソープ)を撤廃しました。ポンプボトル式での詰め替え運用を行うことで、個包装のソープ類使用時と比べて、年間約49tのプラスチック容器の削減につながっています。プラスチック資源循環法の施行を機に、歯ブラシの材料をプラスチックからポリカーボネートに変えるホテルも見られますが、ポリカーボネートの方が環境に良いかというと、決してそんなことはありません。目指すべきは、プラスチックの廃棄そのものを少なくすること。私たちが行った調査によると、宿泊者の43%が歯ブラシを持参していることがわかりました。海外では、部屋に歯ブラシがない国がほとんどで、歯ブラシは旅行者が持参する物として考えられています。旅行者に対して、持続可能性の意識や行動を求める「レスポンシブル・ツーリズム」が広まる今、歯ブラシを持参してもらうにはどのような創意工夫が必要なのか。宿泊者の行動変容を促すために、日々マーケットと対話をしながら議論を重ねています。
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Question
東京都では、食品ロス・プラスチックごみの削減に向けた取組を推進するために様々な事業を行っていますが、どのような印象をお持ちですか?
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Answer
東京サーキュラーエコノミー推進センターによるモデル事業、フードテックを活用した食のアップサイクル促進事業、プラスチック資源循環に向けた革新的技術・ビジネス推進プロジェクト……いずれもすばらしい取組だと思います。ただ、事業としての「インパクト」の視点で考えると、検討の余地はあると考えています。例えば食品ロスについて。フランスでは、食べられる食品を廃棄すると罰金対象となり、スーパーマーケットは賞味期限切れや賞味期限の近い食品を廃棄することができません。中国では、飲食店での大量注文による食べ残しに対して、店が客側にその処分費用を請求できるようにしています。韓国では、廃棄物の量に応じて事業所や家庭に課金するという取組もなされています。いつ、誰が、どのくらいの量を捨てたのかを把握する技術的なハードルはありますが、ごみを捨てることが「コスト」として経営や家計に響くので、事業者・家庭の行動を大きく変えるきっかけとなるでしょう。経済原理を働かせて環境対策に活かす。こういった取組がインパクトのある事業だと思います。東京はニューヨーク、ロサンゼルス、パリ、ロンドンなどと並ぶ大都市。東京都が実効性の高い取組を行うことのインパクトは、世界的に見ても大きいでしょう。取組を一過性で終わらせないよう、実効性のある環境対策を期待しています。
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Question
持続可能な循環型社会の実現に向けて、環境問題に取り組む企業も増えています。資源循環を加速し、循環型社会へ移行していく上で、企業にはどのような対応が求められるのでしょうか?
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Answer
星野リゾートが取り組む環境対策は、利益という点で言えば必ずしも“プラス”になっているわけではありません。もちろん、私たちの取組を高く評価してくださるお客様もいますが、より安く、より快適なホテルがあれば、そちらを選択するのが消費者のマインドです。では、なぜこうした取組を続けられるかというと、利益として“マイナス”になっていないからであり、収益を悪化させない環境対策だからこそ、業績の好不調や景気の動向にかかわらず持続可能なのです。逆の見方をすれば、利益を生まない環境対策はサステナブルでなく、一過性に終わってしまいます。企業が取り組む環境対策で世の中を変えていこうと思うのであれば、一つひとつの対策が黒字になっているというのが重要です。では、いかに利益と環境を両立した事業を行うか。さらに言えば、環境にプラスな事業をどのように黒字化していくか。それには、収益を悪化させない方法を地道に探し続けるほかありません。その創意工夫と努力こそが、循環型社会の実現につながっていくと考えています。
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